手のなかに

はじめて私が出雲市にあるこの小さな市場を訪れたのは冬だった。
うっすらと雪に覆われていたその場所で、次に来る初夏に結婚式を行うことが決まった。

鳥取県出身の彼女、出雲に生まれ育った彼。彼女は結婚を機に出雲へと移り住んだ。
自然豊かで、温かい人々と美味しい地元の魅力に包まれたこの町を、彼らはとても気に入っていた。
その魅力がたくさん詰まった市場を結婚式の会場に選んだのもそんな思いから。

「すべてのものに愛を持って触れていたいんです」少し照れながらもそんなふたりらしさを伝えてくれる、優しい夫婦。
「たくさんを手に入れようとするのではなく、今手に触れている幸せを育む気持ちを大切にしたい」彼らが大切にするそんな思いを伝える結婚式を『手のなかに』と名付けた。

6月のはじめ、天気は最高の晴れ。白いシャツに身を包んだゲストたちが、緑まぶしいこの場所に集まった。
挙式は屋外の原っぱで。軽やかな衣装に身を包んだ新郎新婦が親御さまと共に入場した。
ふたりらしい、まっすぐな言葉をお互いに交わす。
挙式の最後にはゲスト全員と手を繋ぎ、目を閉じ、今手のなかにある幸せを全員で一緒に想った。

温かいセレモニーを結ぶと、ビニールハウスの会場内では地元の料理人が集結し、地産の食材をふんだんに使った料理やお酒がスタンバイされていた。
ぶどうの葉が日差しを和らげ、心地よい午後のパーティーがはじまる。
リラックスした会場では大人も子供も自由に楽器を鳴らし、そこに生まれる音楽は、すべてが混ざり合ってなんとも心地よいものだった。
新郎新婦はゲストの席へ出向き、食事や会話を一緒に楽しんだ。
全員で参加するふたりの生い立ち紹介や、どじょうすくいの余興も会場内を笑い声でいっぱいにした。
ありがとうをたっぷりと伝えたい親御さまへは、お野菜をぎゅっと束ねた野菜ブーケに感謝の思いを乗せる。

何より幸せなこと、それは何気ない日常の中にこんなにも愛おしい、人、場所、もの、環境があるということ。
そんな幸せを感じて、全てに感謝を伝えるステージ。
今、手に触れらる幸せを、大切に育んでゆく。ふたりの夫婦の人生がこの原点からはじまっていった。

Date Jul, 2018
Place くるみ市, Shimane